考察13【バッフの言語】

バッフの軍人  アバデデ(第10話)
バッフの軍人 アバデデ(第10話)

 

アニメだけでなく、それ迄の世界中で発表されたSF作品では、地球に攻め込んで来た宇宙人は皆、出会った時から非常に流暢な日本語や英語を喋り、主人公達と普通に会話が成立してました

けど、現実的にはそんな事は有り得なくて、いきなり言葉による意思疏通は不可能なのは自明の理

同じ星のすぐお隣の国から遊びに来てる観光客とすら僕は会話する自信が有りません(笑)


地球人とバッフの人は、身体の構造も文明レベルもそっくりですが、言語は当然違います

今や当たり前なこんな常識をしっかり盛り込む事でイデオンは、リアリズムに於いて他のアニメ作品と一線を画しました

当時はこんな演出すら物凄く新鮮だったんですが、物語序盤のその辺りが描写されたシーンを上げてみます


第1話

異星人を初めて目の当たりににしたカララは、侍女のマヤヤが持っていた『クズラウ式翻訳機』で異星人の言葉を理解しようとします

その直前の、ビーム剣と拳銃で闘うベスを見ながらつい「あの男」と言った後「男?男でしょうね、あの姿」と自問する場面も結構ポイント高いんですが、この辺りの短い1シーンだけで作品のリアリティを一気に上げてしまうのが正に富野節の真骨頂です


第10話

『クリスタル・スター』という星の生物、『バジン』を使った攻撃を仕掛けつつ、ソロシップに取り付いたアバデデが、カララだけに理解出来る様に、バッフの言葉で艦内に呼び掛ける場面が有りますが、その時の言葉は明らかに地球語と違っています

ソロシップのクルー達はその内容を理解出来なかったので、バッフの様な高性能な翻訳機は地球側には無いのかも知れません


さて、このパチンコの玉の様に小さな翻訳機が極めて高性能で、プログラムされていない筈の地球人の言葉を、ある程度正確にバッフの言葉に翻訳しちゃいます

まぁ遠い未来のお話だから、その程度の機械は当たり前なのかも知れません

ほんの少し前の、ポケベルが主流だった時代から見れば、現在のスマホは正にスーパーマシン

ポケベルからたった20年後に、こんなSFチックな機械を、子供までもが持てる様になるなんて、誰も想像してなかった

そう考えたら西暦2300年の未来だし、バッフは地球より進んでるし、記録に無い言葉でも瞬時に読解してしまう機械が有っても不思議じゃありません

それよりも、もっと驚くべきは、たった2日程翻訳機を使用しただけで、すっかり地球の言葉を覚えて、会話まで成し得たカララの驚異的な語学力だったりします

それもかなりセンシティブな内容の会話を展開してますからね


ただ、この辺りの部分に関しては第5話でカララを助けに来たギジェも、普通にベス達地球人と会話しちゃってるから結構早い段階でグダグダなんですが


元から両文明人の言語形態が似てる、とかイデの力が及ぶ場所ではテレパシーで気持ちが通じる、とかってこじ付けもこの後の各話の演出で無理が出ちゃうんです

前述のアバデデさんのバッフ語は明らかに地球側の言葉とは違うし、そーかと思えば34話では、イデオンやソロシップから遠く離れた場所で、地球人マーシャルとバッフのハンニバルはメチャメチャスムーズに会談し、共同戦線を張っちゃいます


だから最初は「さすが富野さん!」って膝を叩きたくなる程革命的な演出だったのに、残念ながら途中からかなりグダグダです

言葉の問題に関してはダンバインでも最後はグダグダでした


まぁそれはさて置き、バッフでは軍人、又は男らしい人物に当たる『漢』みたいな人物を『サムライ』と呼びますが、この言葉はそのままサムライと発音してる様です

また、常用はされてませんが特攻や体当たりを意味する古い言葉に『カミカゼ』と言う単語も存在します

オンエアで観ていた中学生の僕は「実はバッフこそが地球の未来の姿なんじゃないか」って議論を、友人達と戦わせたりしましたが、その後知った数々の設定を知ると、それは間違いだったと理解しました


今更改めて言うまでもないんですが、富野さんは、こんな感じの、その場の思いつき的な謎かけを頻繁にぶっ込んで来てその都度観る側はあれこれ考えてしまう

そーやってみんなあの人の罠にハマって行くんですよね(笑)


バッフの言葉については辞書等は勿論存在しないし、何も明確にはなっていませんが、登場する兵器の名前からいくつかの単語の意味を知る事が出来ます


例えば、劇中にはバッフの戦艦が多数登場しますが、その名称は『グラム・ザン』『サディス・ザン』『ガタマン・ザン』等、必ず固有名詞の後に『ザン』が付きます

この事から『ザン』は宇宙戦艦、或いは亜空間飛行可能なアウトシップを表す単語だと考えられますが、終盤に出て来る超巨大戦艦の名称は『バイラル・ジン』なので、アウトシップや戦艦の総称ではないのかも知れません


その他、戦闘機類や重機動メカの名称にもパターンが有りますが、その辺りは別項【バッフの軍事力】で触れたいと思います


名称とは別にバッフでは、三段階の攻撃をかける際に「アス、デル、トプ」と掛け声を発する習わしが有ります

本編の第10話の亜空間戦闘に於いてアバデデ、ギジェ、ダミドの部隊が、重機動メカ『ギラン・ドゥ』発進で「アス!」艦砲射撃で「デル!」戦艦の体当たり攻撃で「トプ!」と発声しながらソロ・シップに三段攻撃を仕掛けました

劇場版『発動編』ではハルルが搭乗する重機動メカ『ザンザ・ルブ』による3種類のビームを同時発射する際に、同様に発声しています

この「アス、デル、トプ」がそのまま「1、2、3」或いは「3、2、1」の数字を意味するのかは定かでは有りません


全くの余談ですが、イデオン視聴の十数年後に観た、ガンダムシリーズのOVA『MS08小隊』のジオン側の3人組キャラの名前にこの「アス、デル、トプ」が出て来た際には、驚きと共に何とも言えないほくそ笑みを禁じ得ない気持ちになりました

これに直ぐに気付く人は全国のガンダムファンの何割居るんだろう?とか、このネーミングを決めた製作側のどなたかには猛烈に親近感が湧くよなぁ、とか


本当に些細な事だけれど、長くアニメファン、特に富野作品ファンをやっていると、こんな楽しさに出会えたりします

富野さんご本人以外の作品って所がまた面白い

僕と同じ世代の富野チルドレンが、第一線でアニメを作る側の大人になったんだな、と実感出来るんです