考察 5 【イデ伝説】

イデ伝説の英雄とお姫様
イデ伝説の英雄とお姫様

 


"昔むかし、バッフ・クランをおさめていたお姫様が悪い龍にさらわれました。
光は失われ、木々は枯れ、人々は嘆き悲しみました。ひとりの勇敢な若者が龍に立ち向かいましたが及ばず、力つきて倒れました。
ところが若者の涙に反応して天から『イデの果物』が落ちてきました。
その果物を口にした若者の体には力がみなぎり、龍を倒すことができました。
若者は助けたお姫様と結婚して、バッフ・クランの王となりました"

と、まぁ、バッフ・クランに伝わるイデ伝説は、こんな内容の何処にでも有りそうなお伽話です

その原型は『コ・ジッキ』や『旧原典』という古文書に記されていますが、それはとてもシンプルな教訓の様な一文で、上記の様な物語は文献ではなく、口伝として長く人々に浸透していたらしいです
地方や種族により、細かな部分に違いは有れど『イデ』というワードは共通していて、イデの果物はそのまま「良き心によって発動する無限の力」と解釈され、イデの『無限力』は全民族の精神的支柱になっています

バッフの男子は皆お姫様を助けた英雄の様に、強く正しく勇気を持った男で在りたいと望み、女子は英雄に救われるお姫様を自分に重ねながら成長する訳です

バッフ・クランを統治するズオウ大帝は、まつろわない民族や国家への弾圧や侵略を正当化する為に「我こそはイデの英雄の末裔である」と公言し信仰を政治的に利用しています

伝説の中の『イデの果物』が落ちて来たとされる方角の空の先には『イデの星』が有ると信じられ、古来から神聖視されて来ました
バッフの母星にはこのイデの星の方角から飛来したと思われる隕石の痕跡が見つかり、更に近年、数個の流星がその方角から飛んで来るという現象が発生するに至り、バッフ・クランでは「本当にイデが存在するのではないか?」と議論され始めます

馬鹿げた話に聞こえるかも知れませんが、恒星系の外から飛んでくる流星が、宇宙の広さからすれば砂粒にすら満たない特定の惑星にだけ、たかだか数年間の内にたまたま何個も当たる、なんて事は有り得ない事な訳です
しかも惑星は止まっている訳ではなく、恒星の周りを秒速数十キロの速さで公転し、その恒星も銀河の中心を軸に回転し、更に銀河自体も動いてるので、それを宇宙の彼方から正確に狙い撃つなんて事は、デスラー総統にしか出来ません
それを可能にする力は、もしかしたらイデなんじゃないか?
そう言う訳で、この事実確認調査の為の予算が組まれ『イデ捜索隊』が組織され、イデの星を探しに出掛ける事になります

その先に有ったのがバッフ・クランの呼び方で言う処の『ロゴ・ダウ』、地球人の呼び方で言う処の『ソロ星』でした