グリム版赤ずきん


現在の我々が知る赤ずきんの物語は、間違いなくグリム童話版である。

グリム童話版自体も初版から版を重ねる毎に細部にアレンジが加えられている。
ペロー版や口承伝承との違いを確認する為に、大まかなストーリーをおさらいしておく。

『ある村にとても可愛らしい少女が居た。
祖母は特に少女を溺愛し、少女の為に赤い頭巾を作って与え、少女は常にその頭巾を着用していた為、赤ずきんちゃんと呼ばれていた。
祖母が病気になり、ある日母親の指示で少女は母親が焼いたガレットとミルクを持って、別の村に住む祖母の家に1人でお見舞いに行く事になる。
その道中、狼に声を掛けられ、祖母の家の場所を聞き出され、花を摘んで行く様に唆されて寄り道をしてしまう。
その間に狼は祖母の家に先回りをし、声色を使って少女のふりをして玄関を開けさせ、祖母をひと飲みに食べてしまう。
そして祖母の服を着てベッドの中で赤ずきんが来るのを待つ。
その後、祖母宅を訪れた赤ずきんは、狼を祖母だと思い込みベッドに近付き、祖母同様に狼に食べられ、お腹の膨れた狼はそのまま居眠りをする。
近くを通りかかった猟師が、室内の狼に気付き、腹をハサミで切って少女と祖母を救出する。
少女は大きな岩を狼の腹に詰めて切開部を縫い、目覚めた狼は慌てて逃げ出し、池に落ちて溺れ死ぬ。』

最後の狼が死ぬ件に関しては、近年、狼に反省をさせて逃す、という平和的解決にアレンジされた物の方がポピュラーかも知れない。

また、グリム童話版には、この物語の続編となる第2話が存在し、少女は別の狼と対決をし、その時は食べられる事無く、自力で完全勝利を収める。

いずれにしてもグリム童話版では、少女は一度は狼に食べられてしまうが、祖母共々生還し、一応のハッピーエンドな物語となっている。

因みに、ドイツでの赤ずきんの作品化は実はグリム童話が初めてではない。
ドイツにおいて初めて赤ずきんを作品化したのは、ルードヴィヒ・ティークによる戯曲"Tragödie vom Leben und Tod des kleinen Rothkäppchens"(『小さな赤ずきんの生と死』1800年)である。
ペローまでのフランス版赤ずきんには正義の味方役である猟師は登場しない。
猟師は、この戯曲で初めて設定されたキャラクターらしいが、戯曲では猟師は狼を退治しただけで、食べられた少女と祖母は生還する事は無い。
以上の事より、我々のよく知る赤ずきんは

①民間伝承の主人公にペローが赤い帽子を被せた
②ティークが猟師の設定を加えた
③グリム兄弟が食べられた2人が助かるハッピーエンドに作り変えた

こんな変遷を辿ったという事になる。

次項では、このグリム童話より100年以上前に作られたペロー版のストーリーと、その解釈を記載して行く。